ゼロトップ・偽9番とは?
ゼロトップとは、偽9番、ファルソ・ヌエべとも言われ、本来は最前線でプレーするセンターフォワードのポジションの選手が中盤まで降りてくる戦術・システムのことです。
本来センターバックが対峙するストライカーである選手が中盤に落ちることで、中盤で数的有利を作ったり、相手DFを混乱させることができます。本来センターフォワードの位置には、よく背番号9番をつけることが多いストライカーの選手が配置されます。そしてストライカーとして大きな仕事は「点を取ること」です。組み立てといったその9番の仕事以外のプレーもすることから、偽9番(ファルソ・ヌエべはスペイン語で"falso nuebe"と書き、直訳すると”偽りの9”)といわれています。
FWが2人いることを「2トップ(ツートップ)」、1人いることを「1トップ(ワントップ)」というように、FWがいないため「ゼロトップ」と表現されています。なお、単純にセンターフォワードの選手が中盤に下がると言っても、4-5-1のFWが中盤におりて、FWの位置に選手がいない場合、4-3-3でセンターフォワードは中盤に下がるものの、WGや残りのFWはそこまで下がらない場合など、チームごとに様々に応用されている可変システムの1種とも言えます。
センターフォワードの選手が中盤に下がるのは昔からある戦術
偽9番は、名称ペップ・グラウディオラがバルセロナを率いていた時代に、リオネル・メッシ選手にこの役割をさせたことで注目を集めましたが、その歴史は1930年代にまで遡ります。以下がゼロトップ戦術を用いていたチームや選手の代表例です。(※諸説あり)
- ヴンダーチーム(1930年代にヨーロッパ最強と言われたオーストリア代表)
- ラ・マキナ(1940年代に伝説とされたリーベルプレート)
- マジック・マジャール(1950年代に4年間無敗だったハンガリー代表)
- フランチェスコ・トッティを要したローマ(2000年代中盤)
- グアルディオラが率いたバルセロナ
- 18-19シーズンのCLを制覇したリバプール
なお、日本代表でも本田圭佑選手が担っていたことと言われることもあります。
偽9番・ゼロトップのメリット
それでは、ゼロトップや偽9番を採用するシステムには、どのようなメリットがあるのでしょうか。基本的には本来最前線に位置する9番が中盤に下がることによる「前線が流動的になる」ことによります。ゼロトップ戦術のメリットについてご紹介していきます。
FWがフリーになる
センターフォワードの選手にマークをする選手は、センターバックの選手です。単純にセンターバックが中盤に下がるFWについていった場合、本来自分がいべき場所にスペースが開くことになります。そのため、偽9番を担う選手のマークにどこまでもついていくわけにもいかず、結果的にその選手がフリーでボールを受けることが多くなります。
メッシやトッティといった選手がフリーでボールをうけることは、相手にとっては大きな脅威となるのです。特にメッシ選手はハーフスペースでボールを受けることが多いため、フリーでメッシがボールを持ち始めるシーンが頭に浮かぶ方も多いかと思います。
相手DFのマークを混乱させる
中盤に落ちたセンターFWをフリーですることを嫌がりマークをついていくとなると、本来いるべきポジションに大きなスペースができてしまいます。その空いたスペースに、ウィングや、2列目から飛び出されてしまい、簡単にピンチとなる可能性があります。
かと言ってフリーにするのも危険となります。ディフェンス側は、誰がつくのか、どこまでマークについていくのかといった約束事を徹底する必要があります。
中盤で数的有利を作ることができる
自身のマークがついてこなければ、中盤で数的有利な状態な状態を作り出すことができます。
コンパクトなパスワークが可能になり、結果的に相手選手のマークやディフェンスを混乱させることができるのです。
アイソレーションと相性がいい
偽9番の選手のほか、オーバーロードとなる場所以外で、あえてスペースを開けて1対1の状況を作り出すアイソレーションと、偽9番は相性がいい戦術と言えます。
1人で状況を打開できるドリブラーなどがいるチームでは、1体1の状況をより作りやすくなります。
偽9番のデメリット
それではここからは逆に、偽9番戦術のデメリットを見ていきましょう。
戦術が偽9番の選手に依存しすぎる
ゼロトップ戦術はよくも悪くも、偽9番を担う選手の重要度が非常に高い戦術です。
戦術理解度を含め、別の選手が担うことも簡単では有りません。偽9番の役割を担う選手が怪我や出場停止などでその選手が出られない場合、代理がおらず、機能しなかったり、戦術の変更が必要となることがあります。
相手ディフェンダーへのチェイシングが遅くなる
攻撃時にセンターフォワードが中盤に降りてきている状態のため、相手ディフェンダーに対してのチェイシングが甘くなってしまうことがあります。なお、攻撃時と守備時でフォーメーションを変える可変システムが導入されていることも多いです。
攻撃にスピード感が出にくく速攻や裏抜けがしにくい
どうしても中盤に降りている時間であれば、ポジトラ時に枚数が後に固まってしまい、カウンターを仕掛けるにしても前線に人数がかけられない場合があります。また、相手のディフェンスラインの裏を狙い続ける選手がいない状況も増えることも想定されます。
ゼロトップ・偽9番に対する対策
なおゼロトップシステムには、現在様々な対策が実施されています。ここではいくつかのゼロトップや偽9番への対策をご紹介していきます。なお、これをやれば対策できるというものではなく、あくまでチームの戦力・戦術などによるものとなります。
- 偽9番となる選手を複数人やマンマークで封じ込む
- 5バックを採用し偽9番をマンマークする
- ディフェンスラインを下げ、とにかくスペースを消す
- オールコートマンツーマン
偽〇〇は他にも
現代サッカーでは、偽9番だけでなく、様々な「偽〇〇」が存在します。
偽サイドバック(偽SB)
偽サイドバックとは、自分チームがボールを保有した際に、サイドバックが中央に絞りアンカーと同じような高さにポジショニングする戦術のことです。
偽10番
偽10番(にせ10ばん)とは、フォーメーションはトップ下ですが、サイドにポジションニングするなど前線を自由に動き回り攻撃の起点となる選手・戦術のことです。