偽サイドバックとは自分チームがボールを保有した際に、サイドバックが中央に絞り、アンカーと同じような高さにポジショニングする戦術のことで、サイドバックの概念を大きく変えることになりました。今回は、偽サイドバックとはなんなのか、どのようなメリットやデメリットがあるのかを徹底解説していきます!
偽サイドバック(偽SB)とは?
偽サイドバックとは、自分チームがボールを保有した際に、サイドバックが中央に絞りアンカーと同じような高さにポジショニングする戦術のこと。
名将グアルディオラ氏がバイエルン時代に開発・導入した戦術で、攻撃時にサイドバックがハーフスペースに位置し、自陣でのゲームメイクやセンターバックとしての役割もこなします。偽サイドバックの登場により「タッチライン際を何度も往復してマッチアップを繰り返し、正確なクロスをあげる」という、サイドバックのイメージが大きく変わりました。上記の図ではわかりやすくするため、両サイドバックが内側に入っているだけとなっていますが、
- ボランチが一枚下がり3バックを形成、両サイドバックが中央にポジションをあげる
- 片方のサイドバックがボランチの位置まであがり、もう片方のサイドバックはCBとスリーバックを形成
など、試合の流れや状況によって、様々なケースが見られます
偽サイドバックの考え方は昔からあった
なお、偽サイドバックのように、サイドバックが内側にポジショニングを取るという概念は昔からありました。
SBがタッチライン際でポジショニングしていると、CBからSBへのパスが出された際、カバーシャドウでCBへの戻すパスを防がれつつ、縦パスも切られてしまい、結果的にハメパスとなってしまう可能性があります。
そこで、サイドバックが内側にポジショニングすることで、ウィングへの角度がつきパスコースは空きやすく、相手マークも混乱させやすいため、個人戦術としてサイドバックが中に入る戦術は、昔から存在しました。
アラバ・ロール
グアルディオラ監督のバイエルンでは、最初から両方のサイドバックが偽サイドバックとなっていたわけではありません。
最初は左サイドバックがセンターハーフに近づき、アンカー落ちによりスリーバックを形成、右サイドバックは通常通り右サイドで前に上がるというものでした。当時左SBを務めていたダヴィド・アラバ選手の名をとり、「アラバロール」と言われていました。そして、グアルディオラ氏がバイエルンミュンヘンを率いた3年目から、両サイドバックがアンカーを挟むようにポジションを取る「偽サイドバック」が導入されました。
偽サイドバックのメリット
それでは、偽サイドバックを導入するメリットは下記の通りです。
- ウィングを活かしやすい
- IHが高いポジショニングを維持できる
- ハーフスペースを活用できる
- 中央で数的有利を作りやすい
- カウンター時に中央を使われにくい
それぞれ解説して行きます。
強力なウィングを活かしやすい:偽サイドバックのメリット
偽サイドバックは、強力な味方ウィングを活躍しやすくさせやすい傾向があります。
偽サイドバックが中央に寄ってハーフスペースでボールを持った際に、対面する相手選手も中央に移動せざるを得ません。そうすると、味方ウィングへの斜めのパスコースが開きやすくなります。
サイドバックがタッチライン際でボールを持った場合では、ウィングへの縦パスは遮断されやすくなるほか、パスを通しても挟まれてしまう可能性があります。しかし内側にいるサイドバックに、相手サイドハーフがついてきた場合、味方ウィングと相手サイドバックとの1体1の状況を作りやすくなるのです。
グラディオラ監督がバイエルンにて偽サイドバックを採用した際には、ロッベンやリベリーという「ドリブルで突破できる強力なウィンガー」が在籍していました。マンチェスターシティにも、スターリング、マフレズ、ベルナウド・シウバなどの優れたウィンガーがいます。
そのウイングを意図的に孤立させ、相手SBとの1体1の状況を作り出す「アイソレーション」と相性がいい戦術となのです。
偽サイドバックやインサイドハーフがアンダーラップ(インナーラップ)を仕掛けることで、近年増加している利き足が逆足のウィングのメリットを生かすこともできます。相手SHなどがマークを誰につくかを迷わせることにもつながり、結果的に味方ウィングを活躍させやすいのです。
インサイドハーフが高い位置にポジショニングできる:偽SBのメリット
偽サイドバックが自陣のハーフスペースまで中央に寄ってくるため、味方のインサイドハーフがCBのボールを受ける頻度などが少なくてすみます。そのため、IHがビルドアップ時に敵陣の深くでポジショニングをすることができるのです。
さらに偽サイドバック、ウィング、インサイドハーフでトライアングルを形成することも可能で、コンパクトにパス回しをすることもできます。
ハーフスペースを活用できる:偽SBのメリット
多くの場合偽サイドバックは、近年非常に注目度が集まっている「ハーフスペース」にポジションを取ることになります。プレーするスペースを確保しやすい、相手のマークやプレッシャーを混乱させやすいといった、ハーフスペースのメリットを偽サイドバックが活かすことができるようになります。
中央での数的有利が作りやすい:偽SBのメリット
サイドバックが中央にが位置していることで、味方ボランチやインサイドハーフ、センターバックとの距離を近くすることができます。中央に選手が密集していることにより、コンパクトな距離感で数的有利が作りやすく、ショートパスが繋げやすいというメリットがあります。
カウンターで中央を使われづらい:偽SBのメリット
偽サイドバックのメリットは攻撃だけではありません。守備時にもメリットがあります。
ボールを奪われた直後のネガティブトランジションの際に、一番突破されてはならない中央に人が密集しているため、カウンターを受けてしまう際に、中央が使われにくいというメリットがあります。奪われる位置や相手チームにもよりますが、中央に人が多いことで5秒ルールなどの戦術とも相性がいいと言えます。
偽サイドバックのデメリット
それでは逆に、偽サイドバックにはどのようなデメリットがあるのでしょうか。偽SBの欠点をご紹介して行きます。
守備時にアウトサイドレーンに広大なスペースがある
偽サイドバックの欠点として、特にカウンターを受けた際に、アウトサイドレーンが大きく空いてしまうことがあげられます。攻撃から守備への切替時には、サイドバックが中盤に絞っている状態のため、相手ウイングやサイドハーフを自由にしてしまう可能性があるのです。
メリットである「中央を使われにくい」ことの裏返しとも言えますが、偽サイドバックに対する対策として、偽サイドバックの裏のスペースを狙われることがあります。
サイドバックに求められる能力が多い
偽サイドバックの戦術と、通常の戦術のサイドバックでは、サイドバックに求められる役割は大きく異なります。基本的にはアウトサイドレーンでプレーしていたため、タッチラインを背負って180度だったプレーエリアが360度になり、細かいショートパスを含めたゲームメイクが求められます。
実際、偽サイドバックには元々ボランチであった選手が起用されたり、選手によってはハマらないことも多くあります。偽サイドバックを務める選手には求められることが多いほか、戦術としても難易度が高いのです。
サイドバックがウィングとなるケース
偽サイドバックがビルドアップ時にボランチ化するのに対し、「サイドバックがウィング・サイドハーフ化する」攻撃的サイドバックも多く存在します。むしろこちらの方がサイドバックのイメージという方も多いかもしれません。この戦術も決して廃れているわけではなく、現在でも多くのチームで導入されています。
サイドバックの選手が、カウンター時にはウイングとしてプレーしたり、遅攻となるときにはウィングが内側に入りつつ、大外でサイドバックがウィングの位置採りをする戦術も見受けられます。
サイドバックの役割は常に進化
サイドバックに求められる能力というのは、時代によって大きく変わってきています。
- ツーバック時代(当時のフォーメーションは2ー3ー5)、ウィングハーフとも言われた両サイドのハーフバックの役割は「主に守備」
- フルバック時代にはより守備が求められ「ほぼ守備専業に」
- リベロ導入時代も「基本的にはウィングのマーク」
- 徐々に攻撃するサイドバックが注目を集める
- 2トップが主流となりウイングを使用するチームが減り、両サイドの攻撃をSBが担うことに
- 3バック時代になるとサイドハーフも内側に入ることが多くなり、両ウィングバックがほとんど一人で片方のサイドをカバーすることに
- 中央のきついプレッシャーを避けるため、4-5-1(4-3-3)システムによりウインガーやサイドアタッカーの復活
- 偽サイドバックの登場によりゲームメイク力なども求められるように
サッカーの戦術は日々進化してきています。偽サイドバックのような選手が今後も増加するかも含め、サッカーの戦術やプレーの変化は面白いものばかりです^^
サッカーの偽〇〇
現代サッカーには偽SB番だけでなく、様々な「偽〇〇」が存在します。
偽9番(ゼロトップ)
ゼロトップとは、偽9番、ファルソ・ヌエべとも言われ、本来は最前線でプレーするセンターフォワードのポジションの選手が中盤まで降りてくる戦術・システムのことです。
本来センターバックが対峙するストライカーである選手が中盤に落ちることで、中盤で数的有利を作ったり、相手DFを混乱させることができます。
偽10番
偽10番(にせ10ばん)とは、フォーメーションはトップ下ですが、サイドにポジションニングするなど前線を自由に動き回り攻撃の起点となる選手・戦術のことです。
伝統的に10番をつけることが多い「トップ下」は、前線の中央にポジショニングしてボールを受け、FWやWGにスルーパスを通すなど攻撃全体をコントロールするのが主流でした。しかし偽10番のプレーヤーは、相手ディフェンスラインの裏を狙ったり、味方選手と積極的なポジションチェンジなど、トップ下にいながらも前線を自由に動き回ることで、チャンスメイクします。